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最後の晩餐

目黒に住む一番のメリットは?と聞かれたら
『中目黒を使っていると朝晩の通勤が確実に座れることです』
と答えるだろう。

朝は中目黒から始発が出るから急いでなければ
確実に座れるまで列車を見送ればいいし、
夜19:00~20:00、中目黒方面は比較的空いていて難なく座れる。

この電車に乗っている20~30分間は確実に寝ることができる
というのは満員電車で押し潰されながらの通勤とは比較にならない
快適さである。

ってことで、ほとんどの場合、僕は電車に乗ると寝てしまう。

その日もそうだった。
一日の業務が終わって、
いつものように日比谷線中目黒行に乗り込む。
ドアが開くと同時に人が雪崩れ込み、空席を埋めていく。

無論、いつものように一番端部分の座席を獲得して
座るや否や目を閉じ眠りにつこうとした瞬間、
斜め前付近の席からのしゃべり声が耳について、眠ることができない。

(あ~、うるさいな。もうちょっと、静かにしゃべれよ)

と、心で思う。
この時間の電車は帰路に着く疲れたサラリーマンが
ほとんどを占めるので、車内はシ~ンと静まり返っている。
ちょっと大きな声でしゃべると車内全体に話の内容が
伝わる静けさである。

(なんだ?何話してんだ?)

目をつぶったまま話を聴く。
しゃべっているのは若い女性二人組であった。

(カヨコ)『メグミはさぁ~。明日死ぬとしたら最期何食べたい~?』

(メグミ)『えぇ~、最後の晩餐ってやつ?そうだなぁ。
     .............やっぱり、お母さんのハンバーグかな~』

(カヨコ)『あぁ、いいね。いいね。おフクロの味ってやつ?
     分かれるよね~。『思い出の味派』か『本当に好きなモノ派』に。』

(メグミ)『じゃ~、カヨコはどっち?』

(カヨコ)『私?私は後のほう。本当にコレ好き!ってのを食べたい派』

(メグミ)『へぇ~、じゃカヨコだったら最期に何食べたいの?』

(カヨコ)『私?私だったら.......絶対「バーニャカウダ」!
     バーニャカウダ、チョー好き~』

(メグミ)『あぁ~。バーニャカウダ。ウマイよね~』

(カヨコ)『でしょ!?私、今世界一好き!
      最初食べたときマヂ、ビビッたもん!.......』

(カヨコ)『しょっぱくて!』

(カヨコ)『しょっぱくて最高にうまい』

..........しょっぱくて最高にうまい......(;´Д`)

衝撃を受けた。
なんとこの「カヨコ」は『世界一好き』なものを
『しょっぱい』と表現したわけだ......。
なんとアバンギャルドな表現方法か.......。

注目したいのは『しょっぱい』の意味である。
通常であればネガティブな意味で用いるだろう『しょっぱい』を
ポジティブな意味で用いている部分だ。

なんと言っても世界一好きなわけだから
『しょっぱい』がネガティブな意味なわけがない。

・優雅な香りナンタラカンタラ~だの、
・繊細でキメ細やかな~だの、
・最初にxxの来て、その後xxが来るだの、
・味のIT革命や~!だの

世の中には料理の素晴らしさを表現する方法は数多くあれど、
これほど全てを削ぎ落とし一言に集約した表現はあるだろうか......。

しょっぱい

スゲェ。こいつ、スゲェぜ。
興奮と好奇心に勝てず、パッと目を開けると、

オレの斜め右前方の席には、
マツコ・デラックスと伊集院光バリのかなりポチャな女性二人が座っていた.........。

カヨコの辞書には『しょっぱい』=『最高にうまい』と記されている。



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