夜な夜なバーで逢いましょう

夜な夜なバーで逢いましょう

皆さん、1人呑みしますか?

僕の周りにはほとんどいません。
僕も、そんなに酒が好きなわけじゃないのでわざわざお金をかけて一人で飲みに行くなんて考えられませんでした。
ところが、ちょっとしたきっかけでお邪魔して以来、ここ最近、ついつい行ってしまうんです。一人で。
夜は別世界。
行かなきゃ知らなかった赤の他人とのゆるくて無責任でオチの無いコミュニケーションを、ちょこっとお伝えします。

さて、きっかけは先日、僕を残して奥さんと子供達が旅行に行ってしまった日のことです。
東京に大雪が降って東京の交通網は大混乱。
山手線やら中央線やら、外を走っている電車は軒並み遅延し帰宅ラッシュに大きな影響を与えました。

世の中は、そんな状況で右往左往していましたが、僕はすんなり最寄り駅まで帰ってきました。地下鉄は最強です。
日比谷線と三田線はほぼ通常運行でした。ちょっと混んでましたけどね。
最寄り駅に到着し、外に出ると大雪。
とてもじゃないけど、どこかでガッツリ一人夕食を食べる気にはなりませんでした。
とはいえ、久しぶりに手に入れた一人の時間です。
コンビニ飯はわびしい。

そんな事を考えながら、雪の中、駅から自宅へとぼとぼ歩いていると自宅近くの雑居ビルの2階に灯が見えました。

あ~、ココか......。

実は以前から気になっている店でした。
帰宅途中に毎日見かけていたので。

ビルの1階に着き、傘と体に付いた雪を払い、2階へと上がります。
雑居ビルの古い扉です。
正直、メチャメチャ怪しい。
いつもだったら絶対に入りません。
一旦躊躇しましたが、雪の混乱で気が大きくなっていました。今日だったら何やっても許されるんじゃないかみたいな。
ガバっと扉を開けると店の中の暖かい空気がボワッと体を包みます。

「いらっしゃいませ」

30代の店主が僕に声をかけます。
店の中は、カウンター5席。小さなテーブル席2卓。
カウンター越しに店主との距離は1メーター無いメチャメチャこじんまりした店でした。
カウンターには30代男性客1名と50代男性と40代女性のカップルが既に座っていて、店主に促され僕はカウンター中央の席に座りました。

「外寒いですよね。雪大丈夫でした?」

店主はメニューを渡しながら声をかけてきます。
寒いですね。雪はぼちぼち降ってますよ。っと軽く応えながらメニューを見ると、おでんと日本酒がメインの店のようだったので、おでんの数種盛りと日本酒熱燗をオーダーしました。

僕のオーダー終わりに合わせてカップルが席を立ちました。
精算を済ませ店を出ていきます。
おでんを盛りながら、店主が話しかけてきます。

初めましてですよね?

ええ、そうです。
こんな天気なので、とりあえず自宅近くまで帰って来たんですが腹が減ってしまって。
嫁さんと子供旅行行ってしまって家になにもないんですよ。

あぁ、なるほど。
ご近所ですか?

ええ、その後ろの。ほら。そのマンションの二軒隣の白いマンションです。

すると、カウンターにいた男性が、

あぁ、僕、その隣のマンションです。

そうなんですか!?よく来られるんですか?

ええ、共働きで嫁さん遅いときは結構来ますね。

バーというのは不思議な空間です。
普段、外で突然他人に話しかけることなんてありませんよね。
マンションの廊下で誰かに会っても会釈程度で済ませる。そんなもんです。

このバーという空間は全く逆で、皆ぐいぐい積極的に話す空気が流れているんです。
もちろん、話さず一人でゆっくり飲むことも全然問題ありません。自由です。皆自分の自由に過ごせる空気でもあるんです。
そんな相反する空気が一体になっている所が不思議な所です。

 

その男性と店主としばらく、近所の事や、家の事を話し込み、男性が席を立ちました。

じゃ、また。

おでんをぱくつきながら、日本酒の熱燗を流し込むと体の内側から熱くなってくるのを感じます。雪の日に熱燗はいいですね。最高です。

しばらくすると、20代の小太りの男性が一人で入ってきました。

こんばんわ。

この男性も会社帰り。
独身で僕と同じように家に帰ってもなにも無いので寄り道したとのこと。
週に1回は来るとの事で、店主とも顔見知りです。

もうしばらくすると、20代の女性が一人で入店。

こんばんわ。

近所のスーパーにケチャップを買いに来た帰りにふらっと寄り道したとのこと。
明日のお弁当を前日に作っていて、ケチャップがなかったので大至急買いにきたそう。
じゃ、寄り道していていいのか?まぁ、その辺はいいか....
とりあえず、ケチャップがあれば、なんでも食えるケチャラーだそう。

この女性が、日本酒のダシ割りなる飲み物をオーダー。
日本酒におでんのダシを入れた飲み物だそうで、かなり暖まると。
へ~、今度飲んでみよう。

しばらく天気の話やら近所の話やらをして、女性がサクッと席を立ちました。20分間くらいでしたかね。
それはそうです。明日の弁当を作ってる途中ですから。

もう一人の男性、店主と共に、しばらく話します。

明日、お客と熱海でゴルフの予定だったんですよ。
会社の後輩も一緒に行くってことで後輩も気合が入ってて練習するって言ってて。
負けてられないので、僕も相当練習してたんですけどね。
ダメかな。明日。

熱海だから、大丈夫じゃないですか?

いや~、無理無理。さすがに無理でしょ。

気合でやるしかないですかね。

気合で溶かせるなら、今その辺の雪も溶かせますよww

そりゃ、そうですよねww

なんて無責任な会話でしょう。
でも、これがイイんです。
話振ってる方も真剣に質問してる訳じゃないし、答える方も真剣に答える気なんてないんですから。酔っぱらってますしね。
この空気がイイんです。この無責任な感じが。

しばらく、だらだら話していると、もう一人40代の男性が入ってきたタイミングで、そろそろっと言って僕が席を立ちました。この段階で3時間近くもいました。
居心地が良くなければ3時間もいれません。
また店内に時計が無いので、時間の感覚が無くなるんです。これまた不思議な感覚です。

会計を済ませ店を出ます。

また、お会いしましょう

店を出て、ものの30秒で家に着きます。
家のソファに座りながら、ふとツイッターやってるみたいだったなぁっと。素性は全く分からない同士でメンション飛ばし合ってるみたいな感じ。

きっかけが長くなりましたが、これ以来、このフンワリと無責任な感じが欲しくなるんです。いつ?それは深夜です。

奥さんと子供が寝静まった後、深夜0:00~1:00頃になると無性に行きたくなるんですね。不思議です。

寝る前にゴミ小屋へゴミ出しに行くんですが、そこから店が見えます。チラッと見て灯が点いていると、千円をポケット突っ込んで通うようになってしまいました。
あ~、これはマズい。夜遊びは。でも、ついつい。

では、また夜な夜なバーで逢いましょう。

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