オレ

名物オバちゃんを叱り付ける

取引先の担当者に60歳を優に超えたオバちゃんがいる。

ホントに業界というか同業者で知らない人はいないんじゃないか
という名物オバちゃんで、みんなから天然記念物のように崇められている。

得意先、仕入先の枠を超えて、誰からしても『頭の上がらない人』なのは
間違いないのだが、実際70歳を超えるか超えないかという人が、
今まさに最前線で仕事をしている働き盛りの20~30代の
仕事のスピードについて来れるかというとそれは明らかに無理であり、
朝、質問した答えが夕方になっても返ってこず、PCが使えず、
それどころかFAXさえも微妙に渋り、口頭で何千万という
金額の仕事を進行し、挙句の果てに言った言わないの話になって
トラブルをおこすという仕事っぷりは、
さすがにナンボなんでもツライものがあり........

先日ついに堪忍袋の緒が切れて、怒鳴りつけてしまった。

『中井さん!あのね。
 こんなこと言いたくないんだけどね~、あえて言わせてもらいますよ。
 ちょっと返答が遅すぎるんじゃないの!?
 返答は遅いわ。やっと来たと思ったら間違いだらけだわ。
 これ中井さんじゃなかったら、もっと強く言ってるところですよ!
 御社内だってそうだと思うよ。
 中井さんだから、社長も周りの皆さんも何も言わないけどね。
 実際、他の人が同じことやったら更迭されるよ!普通は!』

ちょっと言い過ぎてるかな?
少なくとも取引先の担当者に対して感情が入り過ぎたか。
この人、たしかウチの担当になって、37年って言ってたな。
ってことは、オレがまだ精子にもなってない時から、
この位置でこの仕事をやってんのか........。

そう考えるとちょっとスゲェな。

ちょっと、やっぱり、そんな人に対して若造が言い過ぎたかな?........

っと電話しながら考えていたが一度開いた口が止まらず。

(オレ)『ねっ!中井さん。お願いしますよ。
    分からないなら、せめてメモくらい取って下さいよ。
    それもイヤなら、FAXしますからFAXで返信をしてくださいよ。
    面倒くさがらずに。ねっ?イイ?』

(中井)『....................................』

(オレ)『なっ、中井さん?聞いてます?.........』

(中井)『あっ、すいません。聞いてます。聞いてます。
     分かりました。これからそうします。
     でも、一つ分からないコトがあるんですが、
     教えてもらってもいいですか?』

(オレ)『なんでしょうか?』

(中井)『更迭ってなんですかねぇ?』

(オレ)『えっ!?更迭........ですか?』

(中井)『そうです。そうです。
     さっき、おっしゃってた更迭の意味が
     私分からへんから、どういう意味なんかなぁ~?
     って思ってね』

うっ、う~~~~ん...........。

『平たく言えば”クビ”って意味ですよ』

なんて口が裂けても言えない.........。

(オレ)『いや~。大丈夫ですよ......。気にしないでください。
     忘れてください。』

(中井)『そうですか?更迭ってどんな意味なんですかねぇ?
     気になって今夜も眠れへんから社長にでも聞こかなぁ~って
     思ってるんですよ。
     今日、○○さんに『更迭される』って言われたテね。』

(オレ)『あああぁぁ、ダメダメダメ!
     中井さん。それ聞いちゃダメですよ!
     イイですか?それは聞いちゃダメなことですよ。イイっ?』

(中井)『そうですかぁ?そしたら聞かんようにしますぅ~。
     ホントにいつもいつもスンマセンねぇ~。
     老いぼれ相手だと大変ですよねぇ?』

(オレ)『いやいや、そんな事なんですよ!(汗)
     いつもいつも助かってますから!』

(中井)『せやけど、さっきは”困ってる”って言ゆ~ってはったから』

(オレ)『............ぅぅぅぅぅ』

勝てない........。
この人、絶対に『更迭』の意味知ってるし。

故 森繁久彌の老人ブラックジョーク
『今度、病気になるのはいつだったかな?』なみの
海千山千の老獪なやり口に手玉に取られた形のオレなのであった.......。



-オレ
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