オレ

イイ歯医者

今、久しぶりに歯医者に通院している。

右下奥の銀歯の中が虫歯になってしまい神経を抜かなければ
いけないって事になり、ココ1ヶ月くらいかけて治療してもらっている。

んで、今通っている歯医者がなかなかイイ感じだ。

イイ感じといっても別に歯科衛生士のお姉さんが巨乳で
治療中に胸が顔に当たるとかそういった意味ではなくて、
言うなれば、それとは全く真逆の意味でイイ感じ。

ココに通う前までは、
駅前にあるいわゆる普通の歯医者に通っていた。
先生が何名かいて、受付が何名かいて、歯科衛生士のお姉さんが何名かいて、
ちょっと、治療したら『はい。今日は終了。また次回は一週間後です』っていうような
『いつまで通わせるつもりだ。コラッ』ってな感じのトコだ。

あまりにも治療がエンドレスなもんだから嫌気がさしてきて、
会社の同僚に今のところを紹介してもらった。

『とても潔い、高倉健のような歯医者』

というのがフレコミである。
『マヂ。いいねぇ~。めんどくさくなさそうで~』っと期待していた。

そこは小汚い雑居ビルの二階にあった。
外から見ると、看板の○○歯科の『○○』部分が既に朽ちていて
『歯科』としか書いていない。
薄暗い階段を登ると、バーのようなボンヤリとした光が見える。
たしかにやっているようだが......。あまりにも暗い。
昼間なのに既に夜19:00のような光量である。
扉を開けエントランスへ入ると、中は一応病院らしく清潔な感じだ。
若干ホッとする。よかった。あまりにも汚かったら逃げ出していたかもしれん。
しかし、受付に立つも誰もいない。
.......................
しばらく待つも誰も来る気配無し。

『すいませ~~ん!!』

『は~~い』

奥からオバサンの声が。

『あぁ、こんにちは。さきほど電話もらった方ね。どうも』

うわっ!この人が先生か!女医さんだったか。
高倉健的な歯医者だっていうから不器用そうな男かと思ってた!
つか、歯医者で不器用ってのも困るんだけどねっ。
そして。そう。この病院は受付がいない。
この50~60代と思われるオバちゃん先生が切り盛りしているようだ。
小料理屋ばりに一人で白衣を着たまま受付業務をこなしていく。
んっ!?.........待てよ。先生自ら受付やってんのか?........
つ~ことは.......。
そう。そのまさか。
なんと、この病院には歯科衛生士がいない。
つか、そんなことあっていいのか?

だって、先生がチュイ~~~ンってやってる時に、
オレの口壁をつたってノド元付近に集まっていく唾液は
誰が取ってくれるんだい?
ためっぱなしにすんのか?マヂか?
ゴホゴホしちゃうじゃん。絶対ゴホゴホしちゃうじゃん。

患者の不安をよそに、女医さんがガンガン仕事を進めていく。

『はい。じゃ、中入ってくださ~い』

『はい。じゃ、座って』

処置室内は待合室同様どんより曇り空。
自然光ってなんですか?ってな具合に
『男』の蛍光灯一本勝負である。
薄暗くって。薄暗くって。足元のコードで転びそうな勢いだ。

『やべぇ.....マヂでこの人どうやって治療するンだろう......』

薄目をあけて状況を観察すると、
なんと右手にキュイ~~ン、左手にゴゴゴゴゴって吸い取るヤツを
持っているじゃないか。

宮本武蔵.........

オレの頭に浮かんだ言葉はオンリーワン。それだけ。
現代の宮本武蔵が、オレの眼前に現れたのである

あぁ.......マヂか......。大丈夫なのか。
キリスト教徒じゃないが、このときばかりは祈ってしまった。
アーメン。ゴッドブレスユー。

治療が始まった。
右手のキュイ~~ンでオレの歯を、ガリガリ削りながら、
ときより、左手で唾液をガガガガガっと吸い取っていく。
う~~ん。なんと器用な。
でも、患者側もかなり気を使わなくてはならない。
どんなにツラくなっても少しでも口を閉じるわけにはいかない。
通常、衛生士のお姉さんが支えてくれているもんだが、
ココではそんな甘えは許されない。
気を緩めて口を少しでも閉じたら最後、
たぶんドコかが血だらけになるだろう。

『痛くないですか?』

待ってました。
そうだ。歯医者ってのは、コレを聞いてくれないと。
ハッキシ言ってめちゃんこ痛いぜ。
これだけ深いとこまで麻酔無しは無いぜ。
それにもう口が限界だ。

『ひたいれす(痛いです)』

『あぁ、そうね........................』

・・・・・・・・・・・・・・・・・

えっ!?
やめないじゃん。
この人、聞いただけで全然やめないじゃん。
しかも、
『次、削っていきますね~』
とか次のスケジュールを一切教えてくれない。
もくもくと作業を進めていく。

これか。これがヤツの言ってた。高倉健か。
無口すぎるぞ。
なにやってるか怖くて仕方ない。

..............<中略>

なんとか、その日の診療を終えホッと胸をなでおろす。
よかった。何事もなく無事終わった。
治療が終わって『ありがとうございました』と
ドアを開けて待合室に戻るや否や、その流れでお会計となる。
もちろん、会計も先生がやる。

『え~と、¥1,250でいいや』

『いいや』ってなんだ?
なんとザックリ。つか、安い。
あれだけ時間割いといて、この金額でいいのか?

『あぁ、すいません。先生。
 万札しかないので、申し訳ないんですが万札でお願いします』

『あぁ................じゃ、次回でいいや』

ツケがきくんかい。ココは。
スゲェな。
なんか、男なんかより男らしい。

・一人しかいないから、経費がかからない。
・むろん、宣伝もなにもしない。
・だから、診察料が安い。
・治療も長引かせない。
・待たない。
・会計も待たない。

よく考えるとこんなイイ歯医者ない。
歯医者の嫌な部分をバッサリ削ぎおとしてて。
ネガティブポイントを強いて言えば、
なんか闇医者にかかってるような不安感があること
くらいか.........。

とにかく、なんともまぁ男らしい女医さんのやっている歯医者の話。


-オレ