恒夫は叱られて所在なく、
「また、来るわ」
と立ち上がったら、
「来ていらん!もう来んといて!」
と激しくジョゼはどなった。
「・・・・・・ほな。・・・・・・さいなら」
恒夫は腰を上げなくてはしかたがない。
ドアの前でスニーカーを履こうとしたら、
「なんで帰るのんや!アタイをこない怒らしたままで!」
ジョゼが息を切らしていう。
「どないせえ、ちゅうねん」
「知らん!」
「・・・・・・帰るわ。僕」
すると、かんじきの杖が背に飛んできた。ふりかえると、
ジョゼの大きい眼に涙がたまっており、
「クミちゃん」
と恒夫がいうと、涙をためたまま、
「早よ帰り。早よ帰りんかいな・・・・・。二度と来ていらん!」
昂奮してまた息を忙しげにもつらせるので
恒夫は出られなくなってしまう。
大丈夫かなぁ、と恐る恐る寄っていったら、
「帰ったらいやや」
とすがりつかれてしまった。
「帰らんといて。もう、三十分でも居てて。
テレビは売ったし、ラジオもこわれてしもたし、
アタイ淋しかったんや・・・・・・」
「何や、僕、テレビやラジオ代りかいな」
「せや。このラジオは返事するだけマシや」
ジョゼは泣き笑いしていい、恒夫はにわかにジョゼが可愛かった。
(以上、ジョゼと虎と魚たちからの引用)
初めて田辺聖子の『ジョゼと虎と魚たち』を読んだ。
今まで、その奇をてらったようなシャレたタイトルが
ど~も好きになれず、有名なもんだから、
そこかしこで見かけるものの敬遠していた作品。
高田郁作品を全て読みきってしまい、
次の作品を物色すべく書店をウロチョロしていたところ
パッと目に付いたもんで
『じゃ、そろそろ読んでみるか~』
っと手に取った次第である。
読み始めて、とりあえず、いの一番にビックリしたことは、
『なんだよ。コレ。短編集なの?聞いてないよ~』
そう。
ジョゼ虎(もう長いので略します)は、短編集なのである。
んで、その中の一つとしてジョゼ虎がある。
映画にもなったくらいだから、それなりのページ数あるのかと
思いきやあっさりと終わり。
ホントに短編だ。
ビックリした。
けどね。けど。
小説ってのは長けりゃイイってもんじゃないってことが
今回分かりました。
いや~、よかった。グッとくるもんがあるね。
この記事の冒頭に一節を引用したんだけど、
読んでみてどうですか?どう思いますか?
こんな言い方すると無粋だけど、
読んで頂ければお分かりの通り、
この二人のやり取りは、それはもう、
ツンデレ中のツンデレ。
ツンデレの王様って感じ。
もちろん、人にもよるとは思うんだけど、
僕は基本的に『生意気な』『気の強い女性』が
好きなのでみょ~にグッときてしまいました。
特にジョゼの場合は、足が悪いのにってトコが
たまらなくいとおしい。
差別的にとられる方もいらっしゃるので、
表現が難しいですが、
いとおしい。というか、切ない。というか。
とにかく、胸が締め付けられるような
たまらない気持ちにさせます。
分かりますかね?
まぁ、とにもかくにも読んでいただきたいです。
これも即読了できると思います。
思い返してみると、
僕の好きな作品群(本だけでなく)は、どれもこれも
気の強い女性が出てきます。
やっぱりフェチなのだろうなと思う次第です。
例えば、このブログでよく登場する岩井俊二作品
・打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
あと、岩井俊二で言えば、
・LOVE LETTER
もそうですね。
それから、氷室冴子の書いた
・海がきこえる(ジブリアニメもありますね。コレは)
このように並べてみると、
どのヒロインも心に傷を抱えながらも
凛としている女性ばかり。
つ~ことは、今僕が恐妻家であることは、
運が悪かったわけでもなんでもなく、
必然であったのではないか?ということになります。
いやいや、そんなコトはない。
そんなコトはないはず。
大体、ウチの嫁に心の傷なんてもんはあろうわけがない。
くわばらくわばら......。